メルボルン留学を描いた物語『赤と青とエスキース』

メルボルンの大学に留学した女子大生レイの、恋の物語
『赤と青とエスキース』
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本屋大賞にノミネートされた本書は、連作短編集。
第一章『金魚とカワセミ』は、大人の読者はもちろん、
私の生徒さん達・・・特に、留学を希望している
高校・大学生にお薦めしたいです。

【あらすじ】
中学・高校時代から、英語が好きだった主人公レイ。
内気な性格の彼女は

「留学すれば、もっと明るくて社交的になって、
自分を好きになって、人生を変えられるかもしれない」

と夢見て試験に合格し、1年間のメルボルン留学の切符を手に入れます。

しかし、実際に留学生活が始まってからも、孤独で憂鬱な毎日。
学生寮でも大学でも、気の合う友達は一人もできず、
自分の英語は通じず、自信を失ってしまいます。

そんなレイが、ブーという名の明るい日系人の男の子に出会って
恋をしたことから、人生は変わり始めます。

【私の感想】
おそらく留学をしたことのある人は、自分の留学の思い出と重ね合わせて
この章を読むのではないでしょうか。

考えてみると自分は、学生寮でも大学の授業でも、
良い友人達に囲まれ、尊重され、英語で苦労した覚えもなく、
毎日笑顔で過ごしていました。
留学最後の日、「まだ日本に帰りたくない!!」と思ったほどです。

この物語の主人公レイは、最初の数ヶ月間は
「英語が通じない。友人ができない。
→自分に自信を失う。孤独。自分が好きじゃない」
という負のループに陥り、つらい時間を過ごします。

長い目で見れば、それは人生にとって貴重な経験だと思いますが、
まだ二十歳の女の子にとっては、つらいでしょう。

とはいえ、私自身も中学時代、

「誰かから話しかけられるのを待ってるんじゃない!
自分から笑顔で、人に話しかけよう」

・・・と気づくまでに、1年近くかかりました。

自分の壁を、なかなか突破できなかったレイの気持ちは、良くわかります。

個人的には
「レイはオーストラリアで、日系人の友達(後のボーイフレンド)ができたお陰で、
久しぶりに日本語で愚痴や弱音を言えて、
日本語でおしゃべりができることにほっとして、
彼に甘えてしまった」

・・・という描写は、賛否両論あるのでは?
と思いました。

私自身はアメリカ留学時代、
大学のキャンパスを歩いていて、日本人留学生に
日本語で話しかけられるのが、嫌でした。

英語を勉強しに外国に来ているのだから、
できるだけ英語を話したかったのです。

しかし今考えてみるとそれは、
「宿題が多くて大変だよね~~!!」
と愚痴を言い合える、メキシコ人やスウェーデン人の
優しいクラスメート達がいたお蔭かもしれません。
(彼らも自分の母語を全てシャットアウトして、
英語に自分の人生を捧げていました)

この物語の舞台となっている時代は、スマホもネットもなく、
レイとブーはガラケーの電話番号を教え合っています。

当時は気軽に母国語にアクセスできる環境もなく、
レイが日本語を話すことに飢えていた、という描写も、
時代のせいかな…とも思いました。

最後に、この物語のもう一つの魅力は、
メルボルンの名所(王立美術館、植物園、動物園)がたくさん出てきて、
自分もメルボルン留学した気分になれるところです。
本屋大賞ノミネートも、大いにうなづける一冊。
この第1章だけでなく、続きの第2〜4章も、素晴らしい感動的な物語でした。
最後まで、ぜひ読んでみて下さい😃